• やってはいけない事故を起こしてしまいました。
  • トレーラーと接触。頭を 18針縫いました。
  • 本当は、一応保険等のカラミがあるので詳細に言えないのでしょうがね。
  • 「左側頭部裂傷、頭部外傷I型 (略) 約10日間の通院加療および安静加療を要する見込み」と診断されています。
  • 詳細には、私が某産業道路のY川を超える橋の北詰の下り。左端の路肩を走り、信号待ちのトレーラーをすり抜けていたところ、トレーラーの荷を覆うシートを固定するためのゴム紐がちょうど右ハンドルにはまり、バランスを失いました。
  • 自転車は右側のトレーラーに踏まれ、いともあっさりと潰されるのを私は見ました。私は左側の壁に衝突したので、トレーラーに踏まれることはありませんでした。事故の瞬間、私は「やってしまった」と思い、後輪がめちゃくちゃになった自転車に駆け寄り、引きずり、橋から出ました。意識もはっきりしていて、痛みも感じません。とにかく自転車が入ってはいけない橋桁に、確信犯的に入り、すり抜け事故を起こしてしまった。しかも通勤途中で、自分の所属会社には内緒でしたから、罪の意識は相当なものがあります。
  • 自転車を引き摺りながら、「なんとか無傷でいられたら、最悪遅刻の部類でなんとか穏便に済ませられるのでは?」、とかすかに願っていましたが、左の肩から血がしたたり落ちるのを見て「アカン人身事故や」と観念しました。私が橋桁を降りたところで、ちょうど事故に気づき車を降りたトレーラーの運転手に対して「路肩によってくれ」と手で合図しました。私は血の出所を調べるべく顔を触りました。左のこめかみに右手の指がスルリと入ってしまい、もう一度指を見ると血がベッタリついていました。
  • その時でさえ、血を見るという恐怖よりも、上に書いたように「やってはいけないこと」が列をなして頭を去来し、その後にどんな「制裁」が待ち構えているのか解らないことのほうが、はるかに恐怖でした。もう逃げ隠れできないことに怯えていました。
  • 大丈夫かと駆け寄るトレーラーの運転手に、大丈夫だけど救急車呼んでと返しました。私は鉄鋼メーカーのNという会社に派遣で入っていましたが、同じ派遣元のHに電話で、自転車で事故したので今日は休むと連絡したきり、持っていたタオルで左のこめかみを押さえ立ち尽くしていました。運転手さんが会社への電話口で、「座っとけといってるけど、立ちっぱなしですわ」と話すのが耳に入ったときに、はっと我に返り座り込んでしまいました。
  • 救急車を待つまでの間は、轢かれた私も、引いた運転手も「やってしまった」状態でした。とにかく無事でよかった。申し訳ない。の言い合いでした。
  • 私は到着した救急車の中でも、頭部を止血した以外は目だった外傷もなく、頭部の怪我のため脳外科のある搬送先を確保するまでの間、すでに現場に到着し検証を始めた警官のいろいろな質問に答えていましたが、ハンドルがゴム紐に引っかかったと答えた事ぐらいしか覚えてません。
  • 救急車での搬送中は、ちょっと胸が痛い感じがしたので、酸素吸入と心電図をしましたが、別に変わったことも無く、丁度付き添いの救急師も休日に自転車に乗っていることで、「俺も確かに、あの橋は車が空いている休日は道路側を降りたりするけど、通勤時間はなぁ…」「ホンマアホですわ」とか他愛も無い話をしてました。
  • 救急病院では、頭部の裂傷を縫合されました。こめかみの部分は、どうやら神経自体走ってないらしく、搬送中はともかく局部麻酔の注射を打たれると、縫合中に痛みはほとんどでした。それだけでも救いでした。
  • 縫合が終了し、レントゲン、CTと受け、異常なしということで終了のはずが、縫合部の端から血と言うより血漿が滲み出て止まらず、それは左目が見えるようにと弱めの圧迫にせざるを得なかったためだったので、左目は隠していいですと申し出て、強めに圧迫し直してもらい病院を出ました。
  • 病院を出ると、トレーラーを所有する運送会社のOさんが来ていて、警察に来て欲しいということでS警察に向かいました。Oさんには、本当にいろいろな事を話していただきました。この運送会社は私の今の派遣先の向こう岸にある某造船所の運送一般を担っており、全国の造船所のある拠点に営業所があること。九州は物価も安くて人も良くて本当にいい、逆に大阪は物価が高くて住みにくい。関東はそれ以上に食べものが合わないとか、とにかく話題を出してきてもらい和ませていただきました。
  • 警察へ向かう産業道路を箱型の4㌧トラックが荒っぽい運転をしていた時に、高速でも4㌧の車は避ける。4㌧より上の車にはリミッターを入れないといけないが、4㌧はリミッターを入れなくても良いため、荒い運転をする人が多い。
  • あとはコンテナ車も危ない。コンテナはクレーンで積めば終わりなので中身を見ないことがほとんどで、しかも中国から来る荷物など梱包がいい加減な場合が多く、中で荷崩れを起こしているケースで、重心が傾いてることに気づかないまま荒い運転をするとすぐにひっくり返るものだと。
  • その運送会社はトレーラー専門で、人身事故は即、重大事故となるのがほとんどで、営業停止等につながるため、ナーバスにならざるを得ない。運転手としても、90日免停にもなると会社としても解雇せざるを得ない事が解っていて、決して無理な運転をしないし、性格的にもそういう人ばかりになるとのことでした。
  • そんな話をしているうちに、警察に到着しました。担当官より事故直後の検証結果について説明を受け、その後、実況見分を行うため現場に向かうという段取りです。
  • 何枚か写真を見せてもらいながら、相槌を打っていましたが、私がハンドルをとられたことでぶつかった側壁が白くこすれている写真以外は、頭に入りませんでした。
  • トレーラーの運転手も、自転車を踏んだ時点では、タマゴが割れたぐらいの感覚しかなく、それでミラーを見たときに「やってしまった」と思い、停止したとのことで、もし気付かなければ、警察としても厄介な「当て逃げ」になっていたところだということでした。
  • で、その担当官の方が「保険屋から、『事故も事故なので(つまり自転車禁止の道路ですり抜けを行った結果の事故ということか)、責任割合については厳しく見させてもらうので、覚悟して欲しい』と、個人的には聞いています。」と言うことで説明は終わりました。
  • 実況見分は、当然ですが現場の左端1車線をふさいで行われました。そうなると、今まで流れていた車の流れがとたんに悪くなります。これだけでも相当な迷惑をかけることになるのに、あの時の私は何をしていたのかという思いも出てきますが、ここは抑えます。
  • 客観的な物証とともに事故直後の状況が浮き彫りになります。私が左に投げ出されたときに擦れた壁の後、私のこめかみがまともに入ったボルト(防音板を固定するために締めてあったもの)、トレーラーが踏んだリムとべダルが地面に押し付けられたことでアスファルトに残った痕跡。それらの物証から事故の発生点を特定。そこからトレーラーの最後尾を割り出し、車体の長さを足して、運転手の気付いた地点を特定。運転手の供述によるトレーラーを止めた位置から逆算して、トレーラーがおよそどのくらいのスピードで走行していたまで割り出されていました。
  • これらの説明を受けた上で、これらの物証と証言から警察として報告する事故状況としてはこのようになりますという流れを受けます。よろしいですか?という問いに「間違いありません」と答えて、実況見分は終了です。
  • この日は、Oさんの運転する営業車で、家まで送っていただきました。
  • この辺りになると、やっと物事のつながりも見えてきて、高かったテンションも元に戻りつつあり、口数も少なくなってきます。Oさんもラジオを付け気分を変えようとしますが、沈んだ気分はなかなか止まるものではなく、つい「後ろを見てしまいそうです」と口走る私に、Oさんは呟く様に「後ろだけは見たらアカン」と返すだけでした。
  • 今回は、重大事故となってもおかしくないものを、文字通り紙一重の位置取りで無事に済んだことは不幸中の幸いで、それだけが救いです。逆に言えば、それ以外救いようのない存在ということなんですが、私自身、相変わらず解っているようで解ってないですね。